クラウドサービスの導入を検討する際、必ずと言っていいほど議題に上がるのがセキュリティの懸念です。「AWSはクラウドだから、重要な情報が外部に漏れやすいのでは?」という声は、今なお多くの企業担当者から聞かれます。
しかし、その認識は大きな誤解です。実は、情報漏洩事故のほとんどはAWSのセキュリティ上の弱点が原因ではありません。別のところに、本当の理由が隠されているのです。
この記事では、「AWSは危険」という誤解がなぜ生まれるのか、その背景を解き明かします。そして、AWSが誇る強固なセキュリティ体制と、情報漏洩事故の“真の原因”について、徹底的に解説していきます。
「AWSはクラウドだから情報が漏れやすい」という誤解が生まれる背景
なぜ、多くの人が「クラウド=危険」というイメージを持ってしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの典型的な思い込みや印象が存在します。
「クラウド=インターネット上の誰でもアクセスできる場所」というイメージ
「クラウド」という言葉の響きから、「インターネットという公の空間に、データがそのまま置かれている」という漠然としたイメージを抱く方が、実は少なくありません。
まるで、誰でも入れてしまう公園に、会社の機密情報が入った金庫を置くような感覚です。この「インターネット上に裸で置かれている」という誤った前提が、情報漏れへの不安を煽る大きな要因になっています。
物理的にサーバーが見えないことへの漠然とした不安
自社でサーバーを管理するオンプレミス環境では、サーバーラックが目の前にあり、物理的に管理している実感がありました。しかし、クラウドではサーバーがどこにあるのか見えません。
この「実体が見えない」ことが、「自分たちのデータをコントロールできていないのでは?」という漠然とした不安感につながります。そして、セキュリティリスクを過大に評価してしまう傾向があるのです。
過去の漏洩事故報道が与える印象(原因は利用者側でも「クラウドで事故」と報道)
ニュースで「AWSを利用していた企業で情報漏洩が発生」といった報道を目にすることがあります。
しかし、事故の原因を詳しく見ると、その大半はAWSのシステム自体が原因ではありません。ほとんどが、利用者側の設定ミスや管理の甘さが原因なのです。
にもかかわらず、報道では「AWSで事故」と大きく報じられがちです。そのため、「クラウドサービス自体が危険だ」という印象だけが強く残ってしまいます。
実はオンプレミスより強固?AWSが誇る鉄壁のセキュリティ体制
これまで述べたような誤解とは裏腹に、AWSは世界最高水準のセキュリティ体制を構築しています。多くの場合、自社単独で運用するオンプレミス環境よりも、はるかに強固なセキュリティを実現できると言えるでしょう。
物理的セキュリティ:世界最高水準のデータセンター
AWSのデータは、世界中に分散された「データセンター」と呼ばれる施設で厳重に保管されています。これらの施設は、まさに要塞と呼ぶにふさわしいセキュリティ対策が施されているのです。
- 24時間365日の厳重な監視と入退室管理
データセンターは、監視カメラ、侵入検知システム、警備員によって24時間365日監視されています。内部に入れるのは、事前に承認されたごく一部の従業員のみ。多段階の認証をクリアしなければアクセスすることはできません。そのレベルは、軍事施設や政府機関に匹敵すると言えるでしょう。 - ISO / SOC / PCI-DSS など多数の国際認証を取得
AWSは、そのセキュリティ体制の信頼性を客観的に証明しています。そのために、ISO 27001(情報セキュリティ)やPCI-DSS(クレジットカード業界データセキュリティ基準)といった、数多くの国際的な認証を取得・維持しているのです。これは、AWSのセキュリティ管理がグローバルスタンダードを満たしていることの証しです。
ネットワークセキュリティ:VPCによる論理的に完全分離された仮想空間
AWSでは、「Amazon Virtual Private Cloud(VPC)」という機能が利用できます。
これは、AWSという広大なクラウドの中に、論理的に完全に分離・独立した「自社だけのデータセンター」を作るようなものです。デフォルト設定では外部のインターネットから一切アクセスできません。意図的に許可した通信以外はすべて遮断されるため、第三者から直接アクセスされる心配はないのです。
データ保護:通信と保管時の「二重の暗号化」
AWSは、データの盗聴や不正アクセスを防ぐため、通信時と保管時の両面で強力な暗号化機能を提供しています。
Webサイトとユーザー間の通信は、TLSという仕組みで暗号化されます。また、データベースやストレージに保存されているデータ自体も、「AWS Key Management Service (KMS)」などのサービスを使って簡単に暗号化できます。これにより、万が一データが外部に流出しても、中身を読み取ることは極めて困難になるのです。
不正侵入を前提とした多層防御と脅威検知の仕組み
AWSのセキュリティ設計は、「完璧な防御は存在しない」、つまり「不正侵入は起こり得る」という前提に立っています。
そのため、単一の防御壁に頼るのではありません。ファイアウォール、アクセス制御、侵入検知、ログ監視など、複数のセキュリティ対策を層のように重ねる「多層防御」の考え方を採用しているのです。これにより、仮に一つの防御層が突破されても、次の層で攻撃を食い止め、被害を最小限に抑えることが可能になります。
情報漏洩の本当の原因はAWSではない!事故の9割を占める「設定ミス」と「アカウント管理」
これほど強固なAWSで、なぜ情報漏洩事故が起こるのでしょうか。
その答えは、AWSプラットフォームの弱点ではありません。その原因は、利用者側の「設定ミス」と「アカウント管理の甘さ」。この2つに集約されると言っても過言ではないのです。
【原因1】誰でも閲覧可能に?「S3バケット」の公開設定ミス
Amazon S3は非常に便利なストレージサービスですが、設定を誤ると重大な事故につながります。
典型的なのが、「バケット」と呼ばれるデータの保管場所を、誤って「パブリック(公開)」設定にしてしまうケースです。これにより、本来は社内限定の顧客情報や機密ファイルが、URLを知っていれば誰でもアクセスできる状態になってしまいます。
【原因2】強すぎる権限が命取りに。「IAM」の不適切なアクセス権管理
AWS Identity and Access Management (IAM)は、誰がどのAWSサービスにアクセスできるかを管理する重要な機能です。
ここで、開発者や外部の協力会社に対し、必要以上に強い権限(管理者権限など)を与えてしまうとどうなるでしょうか。そのアカウントが乗っ取られた際の被害が、とてつもなく大きくなります。これは、アルバイトに社長室のマスターキーを渡すような、極めて危険な状態です。
【原因3】家の鍵をSNSで公開するようなもの。「アクセスキー」の漏洩
アクセスキーは、プログラムがAWSのサービスを操作するために使用する、IDとパスワードのセットのようなものです。
開発者が誤ってこのアクセスキーを、GitHubのような公開プログラミングコード共有サイトにアップロードしてしまう。そんな事故が後を絶ちません。これは、自宅の合鍵の写真をSNSに投稿するのと同じくらい無防備な行為です。攻撃者にシステムへの侵入口を自ら提供しているようなものなのです。
AWSの弱点ではなく「利用者の設定不備」が攻撃の起点となる
これらの事例からわかるように、情報漏洩事故の引き金となっているのは、AWS自体の欠陥ではありません。攻撃者は、AWSの強固な壁を正面から壊そうとはしません。彼らは、利用者側がうっかり開けてしまった「設定の穴」や「管理の隙」を狙って侵入してくるのです。
今すぐ確認!AWSの情報漏洩を防ぐために最低限やるべきセキュリティ対策
「設定ミスが原因」と言われても、どこから手をつければ良いか、迷ってしまいますよね。ここでは、情報漏洩を防ぐために最低限実施すべき、基本的なセキュリティ対策を4つ紹介します。
1. IAMユーザーの権限を「最小権限の原則」で見直す
すべてのIAMユーザーやロールに対して、「その業務を遂行するために本当に必要な権限だけを与える」という「最小権限の原則」を徹底しましょう。例えば、データの閲覧しかしないユーザーに、データの削除権限を与える必要はありません。定期的に権限を見直し、不要な権限は削除することが大切です。
2. ルートアカウントには多要素認証(MFA)を必ず設定する
AWSアカウント作成時に作られる「ルートアカウント」は、すべての権限を持つ最強のアカウントです。このアカウントには、パスワードだけでなく、スマートフォンアプリなどで生成されるワンタイムパスワードを組み合わせる「多要素認証(MFA)」を必ず設定しましょう。これにより、万が一パスワードが漏れても、第三者による不正ログインを防ぐことができます。
3. S3バケットの「ブロックパブリックアクセス」を有効化する
意図しない情報公開を防ぐ最も効果的な方法の一つが、S3の「ブロックパブリックアクセス」機能を有効にすることです。この設定をオンにしておけば、たとえ個別の設定を誤ったとしても、バケット全体が意図せず公開されることを防いでくれます。特別な理由がない限り、すべてのアカウントとバケットで有効化しておくのが安心です。
4. AWS Security HubやTrusted Advisorで設定不備を自動チェックする
人間の目だけで、無数にある設定項目をすべて完璧にチェックするのは困難です。そこで、「AWS Security Hub」や「AWS Trusted Advisor」といったサービスを活用しましょう。これらのサービスは、AWSのセキュリティベストプラクティスに基づき、アカウント内の設定不備や潜在的なリスクを自動で検知し、警告してくれます。定期的にレポートを確認し、指摘された項目を修正する習慣をつけることをお勧めします。
まとめ:AWSのセキュリティは「責任共有モデル」の正しい理解から
AWSのセキュリティを考える上で最も重要なのが、「責任共有モデル」という考え方です。これは、セキュリティの責任をAWSと利用者の間で分担するという概念になります。
AWSが責任を持つ「クラウド“の”セキュリティ」
AWSは、データセンターの物理的なセキュリティ、サーバーやネットワークといったハードウェア、そしてそれらを動かす基盤ソフトウェアなど、「クラウドそのもの」のセキュリティに責任を負います。利用者は、これらのインフラが安全に運用されていることを信頼できるのです。
利用者が責任を持つ「クラウド“における”セキュリティ」
一方、利用者は、そのクラウド上で自身が構築・運用するものに責任を負います。具体的には、OSのパッチ管理、データの暗号化設定、IAMによるアクセス権管理、ファイアウォールの設定など、「クラウドの中での活動」に関するセキュリティです。情報漏洩の多くは、この利用者側の責任範囲で発生します。
正しく使えば、AWSはオンプレミスより安全な環境を構築できる
「AWSはクラウドだから危険」というのは、この責任共有モデルを正しく理解していないことから生じる誤解です。
AWSが提供する高度なセキュリティ機能を適切に活用し、利用者としての責任をきちんと果たせば、はるかに安全で強固なシステムを構築できます。それは、自社単独で24時間365日体制のセキュリティを維持するのが難しいオンプレミス環境を、大きく上回るレベルになるでしょう。
まずは自社の設定を見直し、AWSという強力な盾を正しく使いこなすことから始めてみませんか。
この記事を貴社の情報システム部門に共有し、自社のセキュリティ設定が万全か、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
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