就業規則は重要なのに「必要な箇所がすぐ見つからない」。実際、ディーネットでも従来は該当条文を探すのに時間がかかり、同様の問い合わせが人事に繰り返し寄せられていました。そこでDifyを用いたRAGを導入。文書の“持ち方”と検索の“させ方”を見直し、意味単位での分割、メタデータ付与、質問の前処理、ワークフローでの回答生成までを一貫設計した結果、従業員は自然な質問だけで必要な規則に到達できる状態へ変化しました。
本記事では、なぜその設計にしたのか(条文単位だと文脈が切れる/口語質問は検索に弱い等)という判断理由まで含め、実装ステップに沿って具体的に整理します。なお、本事例の詳細なデモや運用の裏側は文中PRのウェビナーでも解説しています。

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ChatGPTで“個人の生産性”は向上しているのに、“業務全体の変革”につながらない。その原因は、生成AIが業務フローに組み込まれていないことにあります。
本ウェビナーでは、ディーネットが社内外で実証してきたDifyを軸としたAIワークフロー設計、RAG運用、業務自動化の実例をもとに、生成AIを業務に根付かせるためのステップを体系的に解説します。
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RAGとは:企業情報活用の新たな形
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、大規模言語モデル(LLM)の生成能力を外部情報源からの検索結果によって拡張する技術です。これにより、LLM単体では持ち合わせていない特定の企業情報や最新情報を含めた、正確で自然な回答生成が可能になります。従来の「文書を探す→読む→解釈する」という手間を大幅に削減し、従業員の業務効率向上に貢献します。

構築のポイント:高精度なRAGシステムの作り方
1. データ登録の最適化
RAGシステムの精度を高める最大のポイントは、ナレッジデータベースへの情報登録方法です。株式会社ディーネットでは、就業規則をそのまま登録するのではなく、以下のポイントを意識した最適化を行いました:
- 意味のあるブロックで区切る:文書を単純に一定文字数で区切るのではなく、「休暇取得の手続き」「残業申請のフロー」など、意味のあるカテゴリやトピックごとに分割。これにより、検索時に関連情報が一塊として取得できます。
- メタデータの付与:各ブロックに「規則名」「章・節の情報」「最終更新日」などのメタデータを付与。検索精度の向上だけでなく、情報の出典や更新状況を回答に含めることができます。
- 平易な言葉への言い換え:法律用語や難解な表現は、可能な限り平易な言葉に言い換えてインデックス化。これにより、従業員が日常的に使う言葉での検索がヒットしやすくなります。
2. Difyワークフローによる精緻なRAG構築
Difyのワークフロー機能を活用して、4つのステップからなるRAGシステムを構築しました。
ステップ1:質問受付
従業員からの質問をシンプルなインターフェースで受け付けます。「有給休暇の取得方法は?」「育児休業の期間はどれくらい?」といった自然な問いかけが可能です。
ステップ2:質問の精度向上
単純にユーザーの質問をそのままナレッジベースに投げるのではなく、LLMを活用して検索精度を向上させています:
【精度向上の例】
ユーザー質問:「子供が熱を出したとき休める?」
↓ LLMによる変換
精度向上質問:「就業規則に基づき、子供が熱を出した場合に従業員がどのような休暇(育児休暇、特別休暇、看護休暇など)を取得できるか、その具体的な制度や条件について教えてください。」
ステップ3:ナレッジからの検索
Difyの「知識取得」コンポーネントを使って、精度向上された質問をもとにナレッジベースから関連情報を検索します。ベクトル検索により、意味的に近い情報が取得されます。
ステップ4:回答作成
検索結果をもとに、LLMが人間にとって理解しやすく実用的な回答を生成します。この際、回答の出典(就業規則の該当箇所)や更新日なども明示し、信頼性を担保しています。
全社AIチャットとの連携:ユーザビリティの向上
株式会社ディーネットでは、構築したRAGワークフローを単独で提供するだけでなく、社内で広く活用されている全社AIチャットツールに組み込むことで、さらなるユーザビリティ向上を図りました。
ツール化による利点
- アクセシビリティの向上:従業員は普段使用している全社AIチャットから、特別なインターフェースに移動することなく就業規則情報にアクセスできます。
- 対話的な情報取得:最初の質問で満足な回答が得られなかった場合、AIチャットが質問の言い換えを提案したり、より詳細な情報を求めたりするなど、対話的な情報取得が可能になります。
- 再帰的なRAGの検索:一度のRAG利用で充分な情報取得ができなかった場合に、自動で質問内容を変更して再検索をしてくれます。
- マルチタスク対応:就業規則だけでなく、他の業務上の質問も同一インターフェースで完結できるため、従業員の業務効率が向上します。
実装方法
Difyの「ツール」機能を活用し、構築したワークフローをAPIとして公開。全社AIチャットのエージェント機能から、この就業規則検索APIを呼び出す形で実装しました。
RAG構築におけるベストプラクティス
今回の業務規則取得RAGの構築経験から得られた効果的なRAG構築のためのベストプラクティスをご紹介します。
- データ分割の最適化:単純な文字数分割ではなく、意味のあるトピック単位での分割が重要
- メタデータの充実:検索精度向上とソース情報提供のためのメタデータ付与
- 質問前処理の実施:ユーザーの自然言語質問を検索に最適化する前処理ステップ
- 回答生成のカスタマイズ:企業のトーンや必要情報を含むよう回答フォーマットを調整
- 既存システムとの統合:単独アプリではなく、既存の社内システムに組み込む
関連するFAQ
Q. RAGとは何ですか?
A. LLMの生成に外部データ検索を組み合わせる仕組みです。社内文書を参照して回答するため、企業固有かつ最新の情報に基づいた応答が可能になります。
Q. 就業規則はどの粒度で分割すべきですか?
A. 目安は「1トピックで自己完結する単位」です。条文そのままの分割だと前後文脈が切れやすく、逆に長すぎると検索ヒットがぼやけます。本事例では「休暇取得の手続き」「残業申請のフロー」など、質問に対応する意味単位で分割しました(理由:検索時に“まとまり”で引けるため)。
Q. メタデータは何を付けると効果的ですか?
A. 最低限「規則名・章/節・最終更新日」。可能なら適用条件や対象者も付与します。これにより検索精度が上がるだけでなく、回答に出典と更新日を明示でき、現場での信頼性が上がります。
Q. なぜ質問の前処理が必要ですか?どんな変換をしていますか?
A. 口語のままでは検索に弱く、ヒット漏れが起きるためです。本事例では(1)意図の明確化(誰が・いつ・何を知りたいか)、(2)制度名への展開(看護休暇・特別休暇など候補列挙)、(3)条件の補完(期間・要件)を行い、検索用クエリに変換します。
例:「子供が熱を出したとき休める?」→「就業規則に基づき、子の看護休暇・特別休暇等の取得可否、条件、期間」。
失敗例:過度に展開しすぎてノイズが増え、関係ない制度まで引いてしまうケース。展開範囲は“制度候補の列挙+条件補完”に留めるのが有効でした。
Q. Difyでの基本フローは?
A. 「質問受付→質問の精度向上(前処理)→ナレッジ検索→回答生成」の4段階です。ワークフローで各段階を制御し、回答には該当箇所と更新日を必ず含めます。
Q. どれくらいのデータ量で精度は出ますか?
A. 厳密な件数よりも“分割とメタデータ設計”の影響が大きいです。少量でも意味単位分割と前処理が効いていれば実用精度に到達します。逆に全文投入やメタデータ不足だと量があっても精度は伸びません。
Q. 社内ツールと連携するメリットは?
A. 使い慣れたAIチャットから直接呼び出せるため利用率が上がります。対話的な深掘りや再検索(再帰的RAG)も可能で、業務の流れを止めません。
Q. 構築で失敗しやすいポイントは?
A. 文字数ベースの機械分割、メタデータ不足、質問前処理の省略、回答フォーマット未設計、既存ツールと分断した提供の5点です。本事例では特に「前処理なしでの検索」が最大のボトルネックでした。
Q. 導入のハードルは高いですか?
A. Difyのワークフローとナレッジ機能で段階的に構築できます。小さく始めて分割・メタデータ・前処理を調整することで、短期間でも効果が出やすい領域です。
まとめ:Difyを活用した就業規則RAG
株式会社ディーネットの就業規則RAGは、Difyの柔軟なワークフロー機能とナレッジ管理機能を活用することで、高精度かつ使いやすいシステムとして実現しました。
Difyプラットフォームを活用したRAGシステムは、就業規則をはじめとする社内ナレッジの活用を劇的に改善し、企業全体の業務効率と従業員満足度の向上に貢献します。導入のハードルも低く、比較的短期間で成果を出せるため、多くの企業でも活用できるのではないでしょうか。
