AWS移行の障害対応は“契約”が9割。「責任が曖昧」という誤解をなくすSLAと運用設計のポイント

AWSへの移行を検討する際、多くの企業担当者が抱く大きな不安の一つに、「障害が発生した際の責任の所在が曖昧になるのではないか」「ベンダーのサポートが手薄になるのではないか」という懸念があります。オンプレミス環境とは異なり、クラウドインフラ、OS、アプリケーションと責任範囲が多岐にわたるため、こうした不安が生まれるのは当然かもしれません。

しかし、結論から言えば、その懸念は「優れた移行パートナーと適切な契約を結ぶ」ことで完全に払拭できます。本記事では、AWS移行における障害対応の「責任が曖昧」「サポートが弱い」という誤解を解消し、「“誰が・何分で・どこまで”を固定する」ことで安心できる運用体制を構築する方法を具体的に解説します。

【専門家が解説】AWS移行後の障害対応、「責任が曖昧」という誤解をなくす方法

「クラウドにしたら、障害が起きた時にAWSと移行ベンダーで責任の押し付け合いになるのでは?」という不安は、AWS移行における最も根深い誤解の一つです。この誤解は、契約と運用設計の段階で完全に排除することが可能です。

AWSの「責任共有モデル」が誤解を生む一因

AWSには「責任共有モデル」という基本的な考え方があります。これは、クラウドのセキュリティとコンプライアンスに関する責任を、AWSと利用者(お客様)とで分担するというものです。

  • AWSの責任範囲: クラウド「の」セキュリティ(データセンター、ハードウェア、ネットワークインフラなど)
  • 利用者の責任範囲: クラウド「内」のセキュリティ(OS、ミドルウェア、アプリケーション、データ管理、アクセス権限など)

この「利用者の責任範囲」を、お客様に代わってAWS移行パートナーが担うことになります。責任共有モデル自体は非常に合理的ですが、この分界点を曖昧にしたまま移行を進めてしまうと、「これはAWSの問題か、それともパートナーの問題か」という混乱が生じ、結果として「責任が曖昧」という状況を招いてしまうのです。

「曖昧さ」を排除する二つの柱:契約書と運用設計書

この曖昧さを排除し、責任の所在を明確にするための強力な武器となるのが「契約書」と「運用設計書」です。優れたパートナーは、移行プロジェクトの初期段階で、お客様と共同でこれらの文書を作成し、合意形成を行います。

  • 契約書: 法的な拘束力を持つ文書。後述するSLA(サービスレベル合意書)などを盛り込み、万が一の際の責任範囲と対応品質を約束します。
  • 運用設計書: 障害発生時の具体的な対応手順、連絡体制、監視項目、復旧手順などを詳細に定義したドキュメント。誰が、何を、どのように対応するかの「行動マニュアル」となります。

これらの文書によって、「たぶん対応してくれるだろう」という期待値のズレを防ぎ、障害対応を属人的なスキルから、計画的で再現性の高い業務プロセスへと昇華させることができるのです。

移行パートナーと明確にすべき責任分界点の具体例

では、具体的にどのような点を明確にすべきでしょうか。以下に代表的な責任分界点の例を挙げます。

対象レイヤー責任の所在(例)具体的な作業内容
ハードウェア/ネットワークAWS物理サーバー、ストレージ、ネットワーク機器の維持管理
OS/ミドルウェア移行パートナーOSのパッチ適用、ミドルウェアのバージョンアップ、セキュリティ設定
アプリケーションお客様 or 移行パートナーアプリケーションのコード改修、バグ修正、パフォーマンスチューニング
データお客様データのバックアップ・リストア方針の決定、アクセス管理
監視・障害一次切り分け移行パートナー監視システムからのアラート検知、原因の初期調査

このように、レイヤーごとに「誰が責任を持つか」を事前に定義することで、障害発生時に迅速な原因特定と対応着手が可能になります。

“誰が・何分で・どこまで”を固定するSLA・RTO/RPOの重要性

契約書や運用設計書で責任分界点を明確にしたら、次は障害対応の「品質」を定義します。ここで重要になるのが、SLA、RTO/RPOといった指標です。“誰が”に加えて、“何分で・どこまで”対応するのかを具体的に数値で約束することで、サポート品質への不安を解消します。

SLA(サービスレベル合意書)で「対応品質」を約束する

SLA(Service Level Agreement)は、提供するサービスの品質レベルを定義し、それを保証する制度です。障害対応においては、以下のような項目を具体的に定めます。

  • 受付時間: 24時間365日対応か、平日9時-17時か
  • 目標応答時間: 問い合わせを受けてから担当者が応答するまでの時間(例:1時間以内)
  • 目標一次切り分け完了時間: 障害の原因調査を開始し、一次報告を行うまでの時間(例:障害検知から2時間以内)

SLAを定めることで、「連絡してもなかなかつながらない」「状況報告が全くない」といった事態を防ぎ、安心して運用を任せることができます。

RTO(目標復旧時間)で「何分以内に復旧させるか」を定義する

RTO(Recovery Time Objective)は、障害発生からシステムが復旧するまでの目標時間です。例えば「RTO:1時間」と定めれば、システム停止から1時間以内にサービスを再開させることを目指します。この時間は、ビジネスインパクトの大きさによってシステムごとに設定するのが一般的です。基幹システムは短く、情報系システムは長くするなど、コストと重要度のバランスを取って決定します。

RPO(目標復旧時点)で「どの時点のデータまで保証するか」を定める

RPO(Recovery Point Objective)は、障害発生時に「どの時点のデータまで復旧させるか」を定義する目標値です。これは、データ損失の最大許容量を意味します。「RPO:15分」であれば、最悪の場合でも障害発生直前の15分前までのデータは保証されることになります。RPOはバックアップの頻度と密接に関係しており、この目標値に基づいて具体的なバックアップ戦略(日次、時次、リアルタイムなど)が設計されます。

障害レベルに応じたエスカレーションフローの明文化

すべての障害が同じ重要度ではありません。軽微なアラートから、ビジネスを完全に停止させる重大なインシデントまで様々です。そのため、障害の深刻度(レベル)を定義し、レベルに応じた報告ルートや意思決定者を定めた「エスカレーションフロー」を明文化しておくことが極めて重要です。これにより、現場担当者だけで対応が難しい場合でも、迅速に経営層や責任者へ情報が伝達され、的確な判断を下すことが可能になります。

障害を“想定内”にするための監視・自動復旧と実践的訓練(GameDay)

優れたAWS移行パートナーは、障害が起きてから動くだけではありません。障害の発生を未然に防ぎ、万が一起きてしまった場合でもその影響を最小限に抑えるための「プロアクティブ(能動的)」な仕組みを構築します。

障害の予兆を検知する24時間365日のシステム監視体制

サーバーのCPU使用率、メモリ使用量、ディスク容量、ネットワークトラフィックなどを24時間365日体制で監視します。単に正常か異常かを見るだけでなく、「徐々にパフォーマンスが劣化している」といった障害の予兆を検知し、深刻な問題に発展する前に対処することが可能です。これにより、利用者が気づかないうちに問題が解決されているケースも少なくありません。

人手を介さず迅速に問題を解決する「自動復旧」の仕組み

クラウドの大きな利点の一つが、自動化による迅速な復旧です。例えば、以下のような仕組みを構築します。

  • オートヒーリング: 特定のサーバーに異常が検知された場合、自動的にそのサーバーを切り離し、正常なサーバーを新たに起動させる。
  • オートスケーリング: アクセスが急増してサーバーの負荷が高まった際に、自動的にサーバー台数を増やしてパフォーマンスを維持する。

これらの仕組みは、人手を介さずにミリ秒単位で実行されるため、深夜や休日に発生した障害であっても、ビジネスへの影響を最小限に食い止めることができます。

擬似障害で対応力を強化する実践的訓練「GameDay」とは

どれだけ緻密な計画を立てても、“想定外”の事態は起こり得ます。その「想定外」を減らすために有効なのが、擬似的にシステム障害を発生させ、対応プロセスを実践的に訓練する「GameDay」です。
GameDayを通じて、運用設計書の問題点やチームの連携における課題を洗い出し、改善を繰り返すことで、本番の障害発生時にも冷静かつ迅速に対応できる強靭なチームを作り上げることができます。

24時間365日体制と窓口一本化で実現する盤石のサポート体制

最後に、日々の運用におけるサポート体制の質についてです。「サポートが弱い」という懸念は、体制と仕組みによって払拭できます。

ビジネスを止めない24/7のインシデント対応

多くのビジネスは24時間365日動いています。深夜のECサイトの注文、休日のオンラインサービス利用など、お客様のビジネス機会を逃さないためには、インシデント対応も24時間365日(24/7)体制であることが不可欠です。信頼できるパートナーは、専門のエンジニアが常時待機し、いつでも対応できる体制を整えています。

AWSや他ベンダーとの調整も任せられる「ワンストップ窓口」のメリット

システム障害の原因が、AWSのインフラにあるのか、利用しているSaaSにあるのか、あるいは自社のアプリケーションにあるのか、原因の切り分けは非常に複雑です。担当者がそれぞれのベンダーに問い合わせ、状況を説明し、調整を行うのは大きな負担となります。
優れたパートナーは、お客様からの連絡を受ける「ワンストップ窓口」となり、AWSやその他関連ベンダーとの技術的な調整をすべて代行します。お客様はパートナーに状況を伝えるだけでよく、問題解決に集中することができます。

問い合わせからクローズまでを可視化するチケット管理システム

「問い合わせた件、どうなっていますか?」といった確認の手間をなくすため、多くのパートナーはチケット管理システムを導入しています。問い合わせ内容、現在の対応状況、担当者、過去のやり取りなどがすべて記録され、お客様はいつでも進捗を確認できます。この透明性が、パートナーへの信頼感を醸成し、「サポートが弱い」という不安を解消します。

まとめ:優れたAWS移行パートナーは障害対応の“司令塔”になる

AWS移行における「障害時の責任が曖昧」「サポートが弱い」という懸念は、適切なパートナー選びと事前の取り決めで解消できるものです。

  • 責任共有モデルを正しく理解し、契約書と運用設計書で責任分界点を明確にする。
  • SLA、RTO/RPO、エスカレーションフローを定め、“誰が・何分で・どこまで”対応するかを固定する。
  • 監視、自動復旧、GameDayによって、障害を“想定内”の事象としてコントロールする。
  • 24/7の対応体制とワンストップ窓口で、担当者の負担を軽減し、迅速な問題解決を実現する。

これらの取り組みを通じて、障害対応は不確実なものではなく、計画に基づいた確実なオペレーションとなります。

優れたAWS移行パートナーは、単にインフラを構築するだけのベンダーではありません。お客様のビジネス継続をミッションとし、万が一の際には冷静に状況を分析し、各所に的確な指示を出す「司令塔」の役割を果たします。パートナー選定の際には、技術力だけでなく、こうした障害対応の設計力と運用体制にもぜひ着目してください。


貴社のAWS運用は、本当に“安心”できる体制ですか?

本記事で解説したような盤石な障害対応体制を、自社だけで構築するのは容易ではありません。もし、AWSへの移行や現在の運用体制に少しでも不安をお持ちでしたら、ぜひ一度、AWSのプロフェッショナルである弊社にご相談ください。