AWSへの移行を検討する中で、「クラウドはオンプレミスより高いんじゃないか?」「従量課金制はコストが読めなくて不安だ…」といった声は、非常によく聞かれるお悩みです。
確かに、オンプレミス環境の構成をそのままクラウドで見積もると、想定より高額な料金に驚くことがあるかもしれません。「話が違うじゃないか!」と思ってしまいますよね。
しかし、その見積もりは本当に正しいのでしょうか。実は、その「高い」という感覚は、クラウドの特性を活かしきれていない、いくつかの誤解から生まれているケースがほとんどなのです。
この記事では、AWS移行におけるコストの誤解を解き明かし、オンプレミスよりもTCO(総所有コスト)を削減するための具体的なコスト最適化の秘訣について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
「AWS移行はオンプレより高い」は本当?その誤解が生まれる3つの理由
なぜ「AWSは高い」というイメージが先行してしまうのでしょうか。その背景には、移行の見積もり方や、オンプレミス特有のコスト構造の見落としが関係しています。
罠①:ピーク性能に合わせた「そのまま移行」の見積もり
最も大きな誤解の原因は、オンプレミスのサーバー構成をそのままAWSに移行する「リフト&シフト」で見積もりをしてしまうことです。
オンプレミス環境では、数年先の事業成長やアクセスの集中に備える必要があります。そのため、性能不足に陥らないよう、あらかじめハイスペックなサーバーを導入するのが一般的です。
これは、普段は一人で乗るのに、年に数回のお客様のために常に8人乗りの大型車を所有しているようなもの。 そのサーバーのCPUやメモリは、平常時にはほとんど使われていないケースが少なくありません。
この「最大風速」に合わせて用意されたオーバースペックな構成のままAWSの料金を試算すれば、当然ながら高額になります。これこそが、「AWSは高い」という誤解を生む最大の罠だと言えるでしょう。
罠②:請求書には載らないオンプレミスの「隠れコスト」
サーバー機器の購入費用だけでコストを比較していませんか?オンプレミスのTCO(総所有コスト)を考える上では、目に見えにくい「隠れコスト」を忘れてはいけません。
- 設備関連費:データセンターの賃料、サーバーラック代、電気代、空調費
- ハードウェア関連費:サーバー本体に加え、ネットワーク機器やストレージの購入・保守費用
- ソフトウェア関連費:OSやミドルウェア、各種ソフトウェアのライセンス購入・更新費用
- 運用人件費:インフラの監視、障害対応、バックアップ、セキュリティパッチ適用などを行うエンジニアの人件費
これらの隠れコストを含めた総額で比べると、AWSの月額利用料のほうが安くなるケースは決して珍しくないのです。
罠③:従量課金制への誤解と「使わない時」の考え方
「使った分だけ課金される」というAWSの従量課金制は、「想定外の利用でコストが青天井になるのでは?」という不安、つまり「コストが読めない」という懸念につながりがちです。
確かに、管理が不十分な状態ではコストが想定を超えるリスクはあります。しかし、このモデルの本質は「使わない時はコストがかからない」という最大のメリットにあります。オンプレミスのように、サーバーが低稼働状態でも常に維持費がかかり続けるのとは対照的に、クラウドではリソースを停止すれば課金もストップ。この特性を理解し、適切に管理することがコスト最適化の鍵となります。
“そのまま移行”はNG!AWSのTCOを劇的に削減する4つの最適化アプローチ
「AWSは高い」という誤解を解く鍵は、クラウドのメリットを最大限に活かす「最適化」にあります。“そのまま移行”するのではなく、以下の4つのアプローチを取り入れることで、TCOを大幅に削減することが可能です。
①まずは現状分析から!サイジングの最適化でコストを適正化
移行の第一歩は、現在のオンプレミスサーバーの「実際の利用状況」を分析することから始まります。CPU、メモリ、ディスクI/Oなどのパフォーマンスデータを収集し、平常時の平均負荷を把握しましょう。
そのデータに基づき、オーバースペックな部分を削ぎ落とし、最適なインスタンスタイプやサイズを選び直す「サイジングの最適化(ライトサイジング)」を行います。ピーク時に合わせていたスペックを平均時に合わせるだけで、コンピューティングコストを半分以下に削減できることも。不足する性能は、必要な時だけスケールアウト(サーバー台数を増やす)で対応するのがクラウドの賢い使い方です。
②使わない時間は電源OFF!開発環境の夜間・休日コストをゼロにする自動化術
開発環境やステージング環境、社内向けの分析システムなど、24時間365日動かす必要のないシステムはありませんか?
例えば、平日の業務時間(9時〜19時)しか使わない開発サーバーであれば、夜間や休日は自動で停止するように設定します。これだけで、サーバーの稼働時間は週40時間程度となり、24時間稼働(週168時間)に比べてコストを約75%も削減できます。 AWS Instance Schedulerなどのサービスを使えば、この起動・停止の自動化は簡単に実現可能です。
③賢く使って固定費ダウン!Savings Plansやリザーブドインスタンスで大幅割引
本番環境のWebサーバーやデータベースなど、常時稼働が必要で、利用量が安定しているシステムには、AWSが提供する割引プランの活用が非常に有効です。
- Savings Plans:1年または3年の利用をコミットすることで、コンピューティング料金がオンデマンド料金に比べて大幅に割引されるプラン。利用するインスタンスファミリーやリージョンを柔軟に変更でき、いろいろな場面で使いやすいのが特徴です。
- リザーブドインスタンス(RI):特定のインスタンスタイプやリージョンを1年または3年契約することで、最大72%もの割引を受けられるプラン。利用計画が明確な場合に最適です。
これらのプランを計画的に利用することで、コストを大幅に削減しつつ、月々の支払いを固定化して予算管理を楽にすることができます。
④データは“賢く”仕分け!ストレージの階層化で保管コストを劇的削減
増え続けるデータもコストを圧迫する大きな要因。AWSのストレージサービスAmazon S3では、データのアクセス頻度に応じて複数のストレージクラスが用意されています。
- S3 標準:頻繁にアクセスするデータ向け
- S3 標準-IA:アクセス頻度は低いが、すぐ取り出したいデータ向け
- S3 Glacier Instant Retrieval:四半期に一度アクセスするようなアーカイブデータ向け
- S3 Glacier Deep Archive:年に一度アクセスするかどうかの長期保管データ向け
このように、データのライフサイクルに合わせて適切なストレージクラスに移動させる「階層化」を行うことで、ストレージコストを劇的に削減できます。S3のライフサイクルポリシーを設定すれば、この移動を自動化することも可能です。
「請求額にドキッ」はもう卒業!予算アラートでコストの“暴走”を未然に防ぐ3つの仕組み
従量課金制への「コストが読めない」という不安は、AWSが提供する管理ツールを活用することで解消できます。意図しないコストの”暴走”は、仕組みで未然に防ぎましょう。
①コストの可視化:タグ付けで部門・プロジェクトごとの費用を把握
まず重要なのは、誰が・どのプロジェクトで・どれだけのコストを使っているのかを「見える化」すること。EC2インスタンスやS3バケットといったAWSリソースに、「部門名」「プロジェクト名」などの情報を「タグ」として付けます。これにより、AWS Cost Explorerなどのツールで、タグごとにコストの内訳を詳細に分析できるようになり、コスト意識の向上と責任の明確化につながります。
②予算超過を防ぐ:AWS Budgetsでアラートを設定
AWS Budgetsを利用すれば、月ごとの予算を設定し、実際の利用額や月末時点での予測額が設定した閾値(例:予算の80%)に達した際に、メールやSlackなどでアラート通知を受け取ることができます。これにより、想定外のコスト増を早期にキャッチ。すぐさま原因調査や対策へと動けるようになります。
③想定外の利用をブロック:AWS Control TowerやSCPでガードレールを設ける
より強力なコントロールを行いたい場合は、「ガードレール」を設けるのが有効です。AWS Organizationsのサービスコントロールポリシー(SCP)などを使えば、特定のAWSアカウントに対してルールを設定できます。例えば、「高価なGPUインスタンスの起動を禁止する」「許可されたリージョン以外でのリソース作成を禁止する」といった制限をかけることで、開発者のミスや意図しない操作による高額請求のリスクを根本から防ぎます。
クラウドの本質は「使わない時はゼロ円」。オンプレの固定費との決定的違い
AWSとオンプレミスのコスト構造には、本質的な違いがあります。この違いを理解することが、クラウドの価値を最大限に引き出す上で不可欠です。
オンプレミスは「常に稼働」が前提の固定費(CAPEX)モデル
オンプレミスは、最初に多額の初期投資(CAPEX)を行い、ハードウェア資産を購入します。一度購入したサーバーは、たとえ利用率が10%であろうと、減価償却費、データセンター費用、保守費用といった固定費が常に発生し続けるのです。ビジネスの需要が減っても、コストを柔軟に下げることは困難と言えるでしょう。
AWSは「必要な時だけ使う」変動費(OPEX)モデル
一方、AWSは初期投資が不要で、利用した分だけを月々の運用費(OPEX)として支払うモデルです。ビジネスの需要に応じてリソースを数分で増やしたり減らしたりでき、コストもそれに連動します。「使わない時はリソースを停止・削除すればコストはゼロになる」。この変動費モデルは、無駄なIT投資を徹底的に排除します。
ビジネスの変化に即応できる俊敏性とコスト効率の両立
この変動費モデルがもたらすのは、単なるコスト削減だけではありません。
新規事業を立ち上げる際に、まずは最小限の構成(スモールスタート)で始め、サービスの成長に合わせてインフラを拡張していくことができます。もし事業が想定通りに進まなくても、リソースを削除すればそれ以上のコストはかかりません。この「失敗できる」柔軟性こそが、変化の激しい時代においてビジネスの俊敏性(アジリティ)を高め、競争優位性を生み出す源泉となるのです。
まとめ:AWSへのコスト不安は解消できる!まずは“正しい”TCO試算から
「AWS移行はオンプレより高い」という言葉は、クラウドの特性を無視した“そのまま移行”を前提とした場合にのみ当てはまる誤解です。サイジングの最適化、リソースの自動停止、割引プランの活用、そしてコスト管理ツールを駆使することで、TCOはオンプレミスよりも大幅に削減できる可能性を秘めています。
正確なTCOシミュレーションで、コスト不安を削減計画へ
「今のサーバー稼働率とピーク性能だけで見積もると高く見えます。まずは平均負荷に合わせてリサイズし、開発環境の自動停止などを加味したTCOを一度、具体的な数値で算出してみませんか?」
私たちのようなAWS移行の専門家は、このようなご提案から始めます。お客様の現在の利用状況を正確にアセスメントし、本記事で解説したような様々な最適化手法を盛り込んだ、現実に即したTCOシミュレーションを行うことが、移行プロジェクト成功の第一歩です。専門家の知見を活用することで、コストへの漠然とした不安を、具体的な削減計画へと変えることができます。
小さく始めて、最適化しながらスケールするクラウドジャーニーへ
AWSへの移行は、一気に行う必要はありません。まずは影響範囲の少ない一部のシステムから移行し、実際に運用しながらコスト管理のノウハウを蓄積していく「スモールスタート」が有効です。
クラウドジャーニーを始め、最適化を繰り返しながらそのメリットを実感することで、コストへの不安は確信へと変わっていくはずです。まずはその第一歩として、専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。
AWSへの移行にお困りの場合は、ディーネットまでお問い合わせください。お客様に最適な運用をご提案し代行いたします。