生成AIが定着しない3つの理由——全社に配って1年、手順書は変わりませんでした

先に書いておくと、私たちが全社に配ったことは、間違いではありませんでした。

この記事は、これからAIを導入する会社向けではありません。配り終えたあと、定着しなかった私たちの話です。

株式会社ディーネットでは、2024年2月から全社に生成AIを配りました。1年後に社内でアンケートをとったところ、数字は悪くありませんでした。AIに慣れた社員も、確実に増えています。

それでも、1年たって社内の手順書が書き換わった業務は、ひとつもありませんでした。

何が足りなかったのかを、あとから3つに分けて整理しました。この記事に書くのは、その3つと、私たちが次にどこへ手を付けたかです。

  • 「使われていない」には二つある、という話
  • 私たちの場合の、3つの理由
  • 次の1つを選ぶときに、いま見ている5つのこと

ここに出てくる数字は、配布対象55名の会社での自社実測です。そのまま他社に当てはまる数字ではありません。これから配る場合も、たぶん同じ順番でつまずきます。


先に、結論だけまとめます。

  1. 利用率は上がりました。それでも、業務のフローは変わりませんでした
  2. 変わらなかった理由は、私たちの場合は3つ(入力の自由さ/共有できないこと/作れる人が増えないこと)
  3. 次に手を付けたのは、全社への再展開ではなく、業務を1つ選ぶことでした
項目結果
配布2024年2月から、配布対象55名の全社へ
利用頻度(回答30名中)毎日 59% / 週に数回 34% / 合わせて 93%
満足度(回答30名中)5段階で 4以上が66%(5=14%・4=52%)
1年後に手順書が書き換わった業務なし

※ 配布対象55名(当時の従業員数は約60名。現在は約70名)。アンケートは配布から1年後の2025年1月に実施し、回答は30名・回収率は約55%です。

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)

※「手順書が書き換わった業務」は組織的に集計した数値ではなく、当社の実感です。

出典: 株式会社ディーネット 社内実感(2025年1月時点)


配って1年、アンケートの数字は悪くありませんでした

まず、配ってよかったことから書きます。

  • AIに触れたことがない社員が、ほぼいなくなりました
  • 議事録の要約、文章の下書き、調べもの。個人の作業は目に見えて速くなっています
  • 「AIで何かできないか」という会話が、部署のなかで出るようになりました

これは配ったから起きたことです。1年ぶんのライセンス費を払った価値は、ここにありました。

回答してくれた30名の内訳

配布から1年たった2025年1月、社内でアンケートをとりました。結果はこうです。

  • 毎日使っている: 59%
  • 週に数回使っている: 34%
  • 合わせて、週に数回以上が93%
  • 満足度は5段階で、4以上が66%(5が14%、4が52%)

ただ、この数字には前提があります。配ったのは55名で、答えてくれたのは30名。回収率は約55%です。 つまり93%というのは、社内全体の割合ではなく、答えてくれた30名のなかの割合ということになります。

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)

答えなかった25名のことは、分かっていません

正直に書くと、残りの25名がどう使っていたのかは、いまも分かっていません。

アンケートに答える人は、そのテーマに関心がある人のほうへ偏ります。だから、答えなかった人ほど使っていなかった可能性はあります。配布対象55名を分母にして計算し直すと、毎日使っていた人は約33%です(当社による推計)。

言い換えると、この93%は、AIに関心がある層に限った数字です。

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)+当社による推計

それでも、手順書は書き換わりませんでした

関心がある層に限れば、週に数回以上が93%。満足度も5段階で4以上が66%。数字だけ見れば、うまくいっています。

ところが、1年たって社内の手順書が書き換わった業務は、ひとつもありませんでした。集計したわけではありませんが、社内を見わたして、ひとつも思い当たりません。

個人の作業は速くなりました。でも業務のフローそのものは、1年前のままでした。たとえば、ある作業をAIに手伝わせて速くなった人がいたとします。その速さは、その人のところで止まります。となりの席の人が同じことをしようとしても、同じようにはなりません。

アンケートで「使っていて困ったこと」として最も多く挙がったのは、セキュリティや操作の使い勝手ではなく、出てくる情報の正確性でした。

利用率は上がっていました。上がっていたのに、手順書は1行も変わっていない。この2つが同時に成り立っていたのが、私たちの1年目です。

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)/手順書に関する記述は当社の実感(2025年1月時点)


「使われていない」には、二つあります

自分たちの話を続ける前に、言葉を分けておきます。配ったものが定着しないとき、その「使われていない」には、性質のちがう二つがあります。

  • 型A: そもそも触られていない — ライセンスは配ったが、ログインしていない
  • 型B: 触られているが、業務は変わっていない — 個人は速くなったが、フローは前のまま

私たちが直面したのは、型Bでした。そして、型Aがどれくらいいたのかは、いまも分かっていません。

理由は前の章に書いたとおりです。アンケートで利用率を測ると、型Aの人は最初から集計に入ってきません。答えないからです。1年目の私たちが見ていたのは、そのアンケートだけでした。

この二つは、次に打つ手がまったく変わります。型Aなら、まだ入口の話です。型Bなら、入口は通っていて、その先で止まっています。私たちは、この二つを分けずに「使われていない」と言っていました。分けるまでは、どちらの手も打てませんでした。

二つを見分ける手がかり

見るものどこで分かるか分かること
ライセンスの実ログイン率ツールの管理画面(アンケートではなく)型Aがどれくらいいるか
手順書・マニュアルが書き換わった業務の数社内の文書型Bで止まっているかどうか

どちらも、アンケートの利用率とは別のところにあります。私たちが1年目に見ていたのは、アンケートの数字だけでした。

「導入したのに使われていない」という段階からのご相談も歓迎しています → どの段階からでも、そこから伴走を始めます


理由① 入力が自由なままだと、出てくるものがそろわない

進め方の問題だったのか、道具の形の問題だったのか。1年たったあと、私たちは後者だと考えるようになりました。

理由を3つに分けて書きます。1つ目は、入力の自由さです。

チャットは、毎回ゼロから話しかける道具です。何を入れてもいい。裏を返すと、何を入れるかが人しだいになります。同じ仕事を頼んでも、聞き方が違えば結果が変わってきます。

そして、出てくるものがそろわない仕事は、業務の手順にできません。 「このチャットを使って」とは言えても、「この手順でやって」とは言えない。手順書に書けるのは、誰がやっても同じ結果になることだけです。

アンケートで最も多く挙がった困りごとが「情報の正確性」だったことも、いまはこの一点につながっていると考えています。モデルの精度が足りないというより、入れるものがそろっていなかった。これは当社の解釈で、アンケートで原因まで聞いたわけではありません。


理由② うまい使い方は、その人の頭の中にしか残りません

2つ目です。

うまく使えるようになった人は、社内に確かにいました。ただ、そのうまさは、その人のところから外へ出ていきません。

共有しようにも、渡せるものがないのです。プロンプトの文字列そのものは渡せます。けれど、なぜその聞き方にしたのか、出てきたもののどこを見て「これは使える」と判断したのかは渡りません。渡らない部分のほうが、実務では大きい。

社内アンケートの自由記述にも、こういう声がありました。

「作り込みに時間がかかる割には、欲しい精度に行きついていない」

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)自由記述より

うまい使い方を見つけた人が、それを人に渡せる形にするには、さらに作り込みが必要になります。その作り込みに見合う手応えが得られない。だから、個人のところで止まる。

もうひとつ、共有が進まない理由として、社内からこんな声も出ていました。「人に見られたくないやりとりは入れにくくなりました」。全社で共通の場所を使うと、入力した内容が誰かに見られるかもしれないと感じる。見られているかもしれないと思われた時点で、その人はもう使わなくなります。

出典: 同上(自由記述より)


理由③ 「作れる人を増やす」でも、そこは解けませんでした

3つ目は、ここまでの2つを解こうとして分かったことです。

入力欄と手順が決まったアプリの形にすれば、そろわない問題も、渡せない問題も解ける。そう考えました。そして、ノーコードで作れるのだから、テンプレートとドキュメントを整えれば、作れるメンバーは増えるはずだと見込んでいました。

そうはなりませんでした。

いま業務アプリやワークフローをつくっているのは、始めた当初とあまり変わらない顔ぶれです。共有や声かけをしなかったわけではありません。それでも、増えていない。

社内の声にも、同じ手応えのなさが出ていました。

「業務にマッチした使い方ができるように作り込むには、まだまだ難しさを感じる」

出典: 株式会社ディーネット 社内アンケート(2025年1月度/配布対象55名・回答30名・回収率約55%)自由記述より

理由を私たちなりに整理すると、こうなります。

  • ノーコードで楽になるのは、組み立ての部分だけ — 画面や処理をつなぐところは、たしかに簡単になりました
  • 難しいのは、その手前と後ろ — どの業務を切り出すか。何を入力欄にするか。出てきたものが実務で使えるか。ここは業務と技術の両方が分かる人の判断になります
  • 作ったあとを直すのも、同じ人 — 動かなくなったときに手を入れられるのは、結局つくった本人です

つまり、アプリを1つ作るというのは、その1つをこの先ずっと見続けるという約束とセットでした。ここを軽く見ていたのが、私たちの見込み違いです。

もっとうまくやっている会社はあると思います。ここに書いたのは、あくまで当社の実感です。

作ったものを、誰が見続けるか。

ワークフローは、いちど動きはじめると業務に組みこまれます。そのぶん、止まったときに困る人も増えます。作るところと、その後を見続けるところを分けて考えると、進めやすくなることがあります。作った後の運用まで含めた進め方は、開発して、終わりにしないのページに書いています。

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私たちは、広げるのをやめました。次の1つを選ぶときに見ている5つのこと

3つの理由は、どれも同じところを指していました。入力欄が決まっていない、という一点です。

だから、方針を変えました。全社に広げることを目標にせず、業務を1つ選んで、そこの入力欄を決める。作れる人を増やすことも、目標から外しました。

全部の業務を見直す必要はありませんでした。私たちが最初に選んだのは、1つだけです。

入力欄が決まる仕事は、どこが違ったか

私たちが、次の1つを選ぶときに見ていること

見ていること
その仕事の入力は、毎回だいたい同じ種類のものか(URL・PDF・画像・問い合わせ文など)
出てきたものの良し悪しを、担当者以外でも判定できるか
いま、誰か1人の頭の中の手順で回っていないか
月に何回も発生するか(年に数回なら、手をかける割に合いにくい)
うまくいかなかったとき、元のやり方に戻せるか

出典: 株式会社ディーネット 社内実践(2024年2月〜2025年1月)

5つ全部に当てはまる仕事は、そう多くありません。1つ見つかれば、それで十分でした。

私たちが実際に選んだ仕事

展示会でもらった名刺のフォロー。 入力は名刺の画像で固定されます。撮れば、読み取りから要約、フォロー文の作成までが流れます。手入力の工数は2人日から0.5人日になりました。この仕組みは別の記事で詳しく書いています → Dify×AWSで実現する展示会リード即時フォロー

自社コラムから、解説ショート動画の企画をつくる仕事。 入力は記事のURLひとつで固定されます。こちらは時間が短くなった話ではなく、それまで企画そのものができていなかった仕事です。入力欄が決まったことで、はじめて回りはじめました。

この事例の中身は、別の記事で詳しく書いています → Dify自社構築(AWS)の費用と運用

並べてみると、選んだのはどちらも「入れるものが決まっている」仕事でした。逆に、入れるものを決められない仕事は、いまも手を付けていません。


そのあと私たちは、入口を残したまま業務ごとに分けました

全社共通のチャットは、そのまま残しました。用途を決めない入口は、決めた瞬間に当てはまらない人が使わなくなるからです。そのうえで、業務ごとに入力欄を決めたアプリを別に用意する、二階建ての形にしました。1階が全員の入口で、2階が業務ごとの部屋、という整理です。

道具としてはDifyを選び、AWS上に自社で構築しています。ただ、同じ道具を使う必要はありません。私たちはAWSの運用を本業にしているので、すでに毎日見ている環境の中に置いたほうが負担が少なかった、という理由でこの形になりました。

費用のかたちも変わりました(内訳は別記事にまとめています)。

そして、うまくいったことばかりではありません。理由③に書いたとおり、作れる人は増えていません。

その構成と、月々かかっている費用の内訳は、別の記事に書いています → Dify自社構築(AWS)の費用と運用


私たちが次に決めたのは、どの業務の入力欄かでした

1年でいちばん分かったのは、生成AIを定着させる前に決めることがあった、ということです。そして私たちの場合、決めるべきものはツールではありませんでした。

配ることでは、業務のフローは動きませんでした。動いたのは、入力欄を決めたときです。そして、入力欄を決められる人は、声をかけても増えませんでした。

アンケートに答えた30名のうち、週に数回以上が93%。それでも、手順書は1行も変わりませんでした。

この一文が、1年間の結果です。

私たちの1年目は、配ることが仕事でした。いまは、次に手を付ける業務を1つ選ぶ仕事に変わっています。やれることが小さくなったようにも見えますが、業務のフローが動いたのは、こちらに変わってからでした。

もし社内でAIの話が止まっているとしたら、次に決めるのは1つの業務かもしれません。私たちの場合は、そこから動きはじめました。

選んだあとには、作ったものを誰が見続けるかという別の問題が出てきます。私たちの場合、その「見る」側にどれだけ時間がかかっているかも、費用と一緒に書いています → Dify自社構築の運用と費用

どの業務から手を付けるか、から話しませんか。

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内部リンク(ボタンの手前にテキストリンクで):AI導入伴走支援について

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よくある質問

Q. 社内アンケートでは利用率が高いのに、効果が見えないのはなぜですか

私たちも同じ状態でした。利用率は、その道具に触っている人の割合を測るものなので、業務のフローが変わったかどうかは映りません。加えて、アンケートに答えるのは関心がある人に偏るため、まったく触っていない人は集計に入ってこない、という偏りもあります。当社は回収率が約55%で、答えなかった25名の実態はいまも分かっていません。業務が変わったかどうかを見るなら、手順書やマニュアルが書き換わったか、という別の指標を並べて見ることになります。

Q. 使っていない人に、使うよう促したほうがいいですか

私たちは促しました。共有会も声かけもしています。それで触る人は増えましたが、業務のフローは変わりませんでした。促すことが無駄だとは考えていません。ただ、促すだけでは届かない部分があった、というのが実感です。触る人を増やす取り組みと、業務の手順を変える取り組みは、別のものとして考えたほうが進めやすいと思っています。

Q. ツールを変えれば解決しますか

当社は変えました。ただ、変えたから解決したわけではありません。変えたあと、業務を1つ選んで入力欄を決めるところまでやって、ようやくフローが動きました。順番としては、道具の乗り換えが先ではなく、「どの業務の入力欄を決めるか」が先です。いま使っているツールのままでも、入力と手順を固定できる仕組みがあるなら、そちらで確かめるほうが早い場合もあります。

Q. 1つに絞る判断を、自分では決められない場合はどうしますか

当社も専任の担当を置いていたわけではなく、決めるまでに時間がかかりました。判断を通す立場にない場合でも、材料をそろえるところまでは進められます。具体的には、ライセンスの実ログイン率と、手順書が書き換わった業務の数。この2つは、利用率とは別の事実として示せます。そのうえで「全社に広げ直す」ではなく「この業務を1つ試す」という提案の形にすると、決める側にとっても判断の対象が小さくなります。当社が最初に選んだのも、1つだけでした。

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